(1)成人年齢引き下げの養育費への影響

平成30年6月13日に、民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げるように民法の一部が改正されました。このことは、今後の養育費の支払い終期にも影響があるのでしょうか。

(2)養育費の支払いは何時まで?

そもそも、現行では、養育費は何歳まで受け取ることができて、何歳まで支払う必要があることになっているのか。実は、養育費をいつまで払わなければならないのかは、法律で明文規定があるわけではありません。当事者に「いつまで支払う」という取り決めがされている場合には、その取り決めに従うことになります。

しかし、取り決めがなされていない場合や、取り決めができない場合には、家庭裁判所に請求を申し立てることになり、家庭裁判所の判断になります。

(3)養育費の考え方 未成熟子

そもそも養育費は未成熟子(みせいじゅくし)の生活費を賄うものであり、養育費の周期は、子どもが未成熟子でなくなるときと考えられます。

未成熟子とは、経済的に独立して自分の生活費を稼いでくることを期待できず、親から扶養をうけることを必要とされる子どものことをいい、「未成年」とは同義語ではありません。

たとえば、子どもが高校卒業後に就職することで経済的自立ができている場合には、未成熟子ではないと考えられます。しかし、就職しても未成年である場合には所得も低いことから未成熟子であるという考え方から、多くの場合、家庭裁判所は、養育費の支払い義務は原則として20歳までという判断をしています。

ただし、子どもが、大学進学を考えている高校生の場合や、現に大学に通っている学生の場合、子どもの大学進学が両親に当然に期待されている場合、両親の学歴や収入から見て相当と考えられる場合には、養育費の支払いは大学卒業まで認められています。

(4)成人年齢引き下げに伴う養育費への影響とは

上述のとおり、養育費の終期については、法律の明文規定などはなく当事者の取り決めや家庭裁判所の運用によりなされていること、未成年と未成熟とは同義でないことから、同法が施行された途端に、突然今まで未成熟と判断されていた18歳が成熟と判断されると考えがたく、影響がないともいえます。

しかし、一方で、今までは、就職している18歳については収入があっても「未成年」であったところ、今後は、「収入がある成人」という扱いになることから、あえて、「収入がある18歳」と「収入がある20歳」を区別する必然性に乏しく、未成熟ではないと判断される懸念もあります。

これについては、同法の成立に伴い、参議院において、以下の附帯決議がなされています。

(付帯決議一部抜粋)

五 十八歳、十九歳の若年者の自立を支援する観点から、本法施行までに、以下の事項に留意した必要な措置を講ずること

1 青年年齢と養育費負担終期は連動せず未成熟である限り養育費分担義務があることを確認するとともに、ひとり親家庭の養育費確保に向けて、養育費の取り決め等について周知徹底するなど必要な措置を講ずること

2 現在の社会情勢に見合った養育費算定基準について、裁判所における調査研究に協力すること

3 十八歳、十九歳の若年者においても個々の成熟度合いや置かれた環境に違いがあることを踏まえ、これらの若年者の成長発達を支援するために(特に児童福祉法の自立支援が後退することがないように)必要な措置を講ずること。

https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/28/210/ronsou.pdf

(参議院ホームページ)

 

簡単に言えば、上記の改正と、養育費の期限は必ずしも連動するものではなく、18歳以上の成年についても、その成年が一人でご飯を食べていけない状態にあるのか、大学進学しているのか、など、個別の事情に応じて、18歳、19歳についても養育費を支払う必要があると判断されるのであれば、支払うべきとの取り決めがなされるべきであり、家庭裁判所もそのような運用がなされるべきだということです。

参議院において、連動させるような運用がなされるべきではないとの附帯決議がなされましたが、上述の通り、養育費の終期については、事実上家庭裁判所の判断でなされているところ、今後の裁判所の運用を注視する必要があります。