1 不倫に関する慰謝料相場
(1)不倫の慰謝料相場
不倫をされた場合、慰謝料を請求する事が出来る場合がありますが、慰謝料に相場はあるのでしょうか。
一般的な慰謝料の相場というものと、慰謝料が高額になるケース・逆に低額になってしまうケースをそれぞれみていきましょう。
まずは、慰謝料の相場ですが、一般的な相場としては、不倫をされた結果として、夫婦間の婚姻関係が離婚にまで至ってしまった場合と、そうではない場合とで、大きく分けて若干の違いがあるものと裁判例上も分ける事が出来ると思われます。
具体的な額としては、離婚にまで至ってしまったケースが150~300万円、離婚にまでは至らなかったケースであれば100~200万円程度がおおまかは相場ではないかと思われます。とはいえ、これはあくまでも大まかな基準、または裁判所などで、事件について、細かい事実にまで気を配らずに慰謝料額を算定しようとする場合に検討されている基準という事になり、裁判例上で認定されている慰謝料は、10~500万円程度とその金額には大きな幅があります。
個々の事情によって、高額になりやすいケースと低額になりやすいケースがありますので、以下、それぞれについていくつかのケースを見ていきましょう。
(2)慰謝料が高額になるケース
① 婚姻期間の長さ
まず、婚姻期間についてです。一般的には、夫婦間の婚姻関係が長い場合には、慰謝料の額も増加すると考えられています。
裁判例の傾向としては、15年以上の婚姻期間の場合について、概ね長期の婚姻期間として言及するなどして、慰謝料の算定要素とされており、そのような場合には慰謝料の増額事由となると考えられている(東京地方裁判所平成24年3月29日H22(ワ)13314WLJ、仙台地方裁判所平成13年3月22日判時1829号119頁ほか)。
② 不貞行為の期間・回数・内容等
ア 不貞行為の期間
婚姻期間の長さと同様に、不貞行為の期間が長期にわたる事も慰謝料が増加する事由となると解されているようです。
例えば、不貞期間が1年以上のものから裁判例においては、比較的長期間にわたるものであるなどと説示されており(東京地裁平成22年2月3日WLJ)、概ね、1年以上から長期にわたるものでは十数年にわたるものなどもあり、不貞期間の長さは慰謝料の増額事由とされています。
イ 不貞行為の回数
不貞行為の回数についても、回数が多ければ多いほど慰謝料が増加する事にはなるようです。
裁判例においては、8か月程度の不貞期間に、20回程度の性交渉があったとしたもの(東京地判平成25年12月4日WLJ)や、6か月程度の不貞期間であったものの、頻度が多いとされたもの(岐阜地判平成26年1月20日EWLJ)などがある。
ただ、不貞行為の回数については、客観的な証拠に基づいて認定する事は難しい傾向にあり、どの程度、実態的真実に即しているかの認定は難しい。
ウ 不貞行為の内容
ⅰ 訴訟係属後や不貞行為を止めるよう申し入れたのに、不貞行為を続けた場合
不貞行為の態様としては、不貞行為が発覚後もその関係を続けた場合や、訴訟提起後においても、不貞行為を継続している場合などには、慰謝料額を増額する傾向にあります。
具体的には、訴訟係属中にも不貞行為を継続しているため慰謝料額を増額されたケース(東京地判平成26年7月11日)、不貞関係に気づいた後に止めるように申し入れたにも関わらず、不貞行為を続けたケース(東京地判平成19年2月21日)などがあります。
ⅱ 妊娠・堕胎等
不貞行為の結果として、妊娠した場合や、中絶した場合なども、慰謝料の増額事由となります。
例えば、自身が子を産む事になった直後に、不倫相手が夫の子を産んでいたという事が発覚したケースなどでは、裁判所において高額な慰謝料を認定している(東京地判平成15年9月8日判例秘書)。
③ 当事者の属性
当事者の学歴・職業・地位・収入等について、昭和40年代までの裁判例においては、直接の考慮要素とされているようにも思える判示がされている事もありました。
しかしながら、近時の裁判例においては、考慮事情とはされていないとされています。例えば東京地判平成23年12月28日(WLJ・平成22年(ワ)41115号)においては、明示的に、「役職や財力・・・属性に関する一般的事情は・・・慰謝料額の算定において考慮する事は出来ない」とされています。
現在においても、特殊な職業(精神科医がその患者と不貞関係になった事案や、弁護士がその元依頼者と不貞関係をもった)という事案においては、考慮されていると思われる事案もありますが、基本的には、裁判例においては直接的には慰謝料の増額事由とはされていないと考えられます。
(3)慰謝料が低額になるケース
上記の場合とは別に、慰謝料が低額になってしまうケースもあります。
① 不貞行為の立証が出来ないケース
例えば、不貞行為自体が立証できないケースでは慰謝料が低額になってしまう事や場合によっては慰謝料自体が認められないケースがあります。
近年は、慰謝料の請求根拠として、いわゆる貞操権侵害という根拠のみではなく、平穏権侵害という考え方に立つ慰謝料請求を求める考え方があり、いわゆる性交渉を伴うような不貞行為が立証できなかったとしても、そのような事に類する関係をもったという事で、慰謝料請求が認められる場合があるのですが、その場合の金額はどうしても低額になってしまいます。
② 婚姻関係が円満かどうか
慰謝料請求が認められる根拠となるのが、不貞行為によって、婚姻関係が破綻させられたという事となり、そもそも不貞行為が始まった段階において夫婦間の婚姻期間が破綻していた場合には、不法行為が成立しないという事になります(最判平成8年3月26日・判タ908号284頁)。
しかしながら、裁判所は、その「破綻」の認定を容易には行っておらず、どちらかというと、程度問題として、その程度を慰謝料の減額要素として考慮する場合が多いといえるため、婚姻関係が円満ではない場合や、例えば、長期にわたって別居している場合などには、慰謝料が減額されたり認められない場合がある事には注意が必要です。
③ 謝罪の有無
裁判例においては、不貞相手からの謝罪が無いという事を、慰謝料の増額事由として考慮していると思われるケースがある反面、逆に謝罪を受けた場合に、これを減額事由として、考慮したものと思われるケースがあります。
例えば、岡山地判平成19年3月1日や、東京地判平成23年2月24日(いずれも判例集未搭載)であり、不貞相手が謝罪している事をもって、慰謝料を減額しているように捉える事が出来る判示がなされています。
(4)まとめ
以上みてきたように、不倫の慰謝料請求には、ある程度の相場があるものですが、その内容によって、増額されるケースや、逆に低額となってしまうケースがある事は事実です。ただ、個々の事案は、皆様違いますので、ご自身のケースが実際にどの程度の慰謝料が見込める事案であるのかについては、弁護士などの専門家にご相談された上で、適切な慰謝料を請求された方が良いでしょう。
以上